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失敗おめでとう!

2010年8月11日 |阿部 淳一郎
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人材開発コンサルタントの阿部さんに、みなさんの抱える悩みを相談するコーナー。

さまざまな問題を解決してきた百戦錬磨の阿部さんが、目から鱗の回答をお届けします。

質問:
現場を知りもしない新社長が机上論を振り回し、営業目標を2倍に設定しました。達成しないとボーナスを下げると言います。やる気が落ちてきました。

阿部さんの回答:
「失敗おめでとう」の意識を持て


【今週の相談】

相談者:木田修介さん
年齢:29歳
仕事:中堅部品メーカーの営業

中堅の部品メーカーで営業をしています。

うちの会社はそんなにガツガツした社風ではありません。人間関係もよくて、同僚たちとはプライベートでも仲がよく、家族や彼女・彼氏同伴でバーベキューをしたりして遊んでいました。

給与は大手企業に比べれば高くないかもしれないけれど、僕は十分だと思っていました。仕事そのものも充実していたし、趣味も充実させることができたからです。ラテンバンドでパーカッションをやっているのですが、平日でも時間をやりくりすれば練習に行けました。

会社がぬるま湯というわけではありません。「みんなで楽しくがんばろう」という風土だったんです。

ところが最近、社長が退任して状況が一変しました。

金融機関出身の新しい社長が外部からやって来て、着任早々、「ともかく営業力の強化だ」と言い出したんです。ごちゃごちゃ理想論を述べていましたが、要するに「一人ひとりの負担を増やすぞ」ってことです。

全員の個人目標が突然、今までの2倍に設定されました。

たしかに不況で業績が落ちているし、新社長の理想も理解できます。でも、いくらなんでも机上の空論ですよ。

うちはルート営業でお客様と良い関係を作って維持することが大切なんですが、新社長は、「既存の顧客の要望に何でもこたえろ。そうすれば受注額も増える」とか、「新規で大口の顧客を取れ」って。そのお達しが、部長を通じてきました。「評価はボーナスに連動させる形にする」とも……。

全然、現場をわかっていません。

新社長はMBAも持っていて、前の銀行ではエリートコースを走り、すごい部署にいたらしいのですが、現場のことをもっと考えてほしいです。

僕ら中堅部品メーカーの仕事は、顧客の要望を全部聞いていたら、納品が間に合わなくなるから、逆に会社の評判を落としてしまうんです。だから、顧客の要望はもちろん聞くけれども、どう折り合いをつけていくかが大切なんですよ。

大口の新規顧客の開拓って簡単に言いますが、僕らの業界はそんなに簡単に入れる世界じゃない。昔からのしがらみだってあるし。

そのことを部長はもちろん承知していて、社長に意見したらしいんですが、完全に論破されて、会議の場で新社長から吊るし上げにあったようです。それ以来、新社長を恐れて、完全にイエスマンの飼い犬みたいになっちゃった。

部長の変化にガッカリです。これまで和気あいあいと一緒に働いていたメンバーに対して、急に詰め寄るような言い方をしたり、「失敗したら会社の未来はない」みたいな言葉を言い出したり。みんな、がんばってるのに……。部下の意見も全然聞いてくれなくなりました。

新社長がこわいんでしょうね。悪い意味で「ザ・管理職」だなーって思います。僕は将来、あんなふうには絶対になりたくないです。

業績が落ちてるんだから、何らかの手を打たなければいけないのはわかりますよ。ただ、現場を知りもしない人間が、いきなり全員の目標値を倍にして、届かなければボーナスを落とすって、そんなのアリですか。

ちなみに、誰1人として目標値をクリアできていません。というより、できるはずがありません。

だんだん、やる気が落ちてきました。会社の空気も重苦しいです。

次の会社が決まっているわけじゃないけど、本音では会社を辞めてしまいたいと思っています。

まだ、がんばるべきでしょうか。それとも会社に所属している以上は、無理難題にも取り組まなきゃいけないですか。モチベーションを保つコツはありますか。

【阿部さんの回答】
受け流して「裏目標」を設定せよ

木田さんの気持ち、すごくわかります。私も同じように、現場を知らない社長に振り回された経験がありますから。

きっと新社長は、事業戦略のプロフェッショナルなんでしょう。でも、企業を支えるのは結局、ヒトです。現場の人間は「感情で動く」ということをご存じないのかもしれないですね。

木田さんがやる気が出ないという今の状況。そりゃ、そうです。正しい感覚です。こんな状況で出るわけがありません。これを木田さんに言ってもしょうがないですが、会社の施策が明らかに間違っていると思います。そして失礼ですが、新社長も部長もマネジメントやモチベーションに関する知見が不足しているように感じてなりません。

理由は、以下です。

人間は誰しも「目標に向かって何かを成し遂げたい」という気持ちを持っています。これを「達成動機」といいます。木田さんの言動からも、その気持ちは見えます。それなのに、なぜモチベーションが下がってきたのか。

アメリカの心理学者、J.W.アトキンソンは、「達成動機=目標を達成したい気持ち-失敗する恐怖」という方程式を研究結果から述べています。

「上司が詰め寄る」「失敗したら会社の未来がない、と言う」「評価はボーナスに連動させる」は、「失敗する恐怖」を煽るものです。

だから木田さんのモチベーションが下がるのは当然なのです。

では、具体的にどう対処するか。

アトキンソンの方程式に照らし合わせれば、「失敗する恐怖」を減らし、「目標を達成したい気持ち」を上げればいいわけです。

そのために3つのことをしてみてください。

1)受け流す力を持つ。「失敗おめでとう」の意識で

部長や新社長からの「失敗したら会社の未来がない」といった言葉には、すべてオトナの態度で耳を傾け、「はい、はい」と受け流してください。

本来、失敗は学びを得る最高の機会なはずです。アメリカの教育学者、ジョン・デューイは「失敗は一種の教育である。『思考』とは何であるか知っている人間は、成功からも失敗からも、非常に多くのことを学ぶ」と述べています。

また、ビジネスの世界でも、サイバーエージェントでは「挑戦した結果の敗者には、セカンドチャンスを。」という言葉をマキシムズ(行動指針のようなもの)の中で(PDF)うたっています。

私が以前、人事コンサルティングに携わった某社では、社内標語で「失敗おめでとう。今こそ成長の機会だ」と掲げていました。当時はまだ小さい会社でしたが、破竹の勢いで成長しています。

社内にずっといると、社長や上司の言葉が絶対だという感覚になりがちですが、社外に目を向ければ、それがおかしな常識だということがたくさんあります。

木田さんの場合、「失敗はしていい」と意識を持つことが必要だと思います。

そして、「目標値200%」を心から「無理だ」と感じるのなら、受け流して構いません。自分で「とても届きそうにない」と感じる目標を設定すると、かえってモチベーションが下がってしまうのです。

2)「裏目標」を設定する

受け流すというのは、「手抜きしろ」という意味ではありません。上司から設定される目標とは別に、自分なりに現実的な「裏目標」を設定するのです。ただし、簡単に手が届く目標でもダメです。

「ストレッチゴール」という考え方を知っていますか。「今よりも成長するためには、目標を“少し”高い位置に置き、それをクリアする行動に全力で取り組もう」という考え方です。日産のカルロス・ゴーンCEOもよく使っている言葉です。

つまり、少し背伸びした目標を「裏目標」として設定します。「この程度だったらできそうだ」と自分で感じられる具体的な目標値、たとえば「目標値120%」と設定します。

そして、その目標値をクリアするための行動計画として、
・既存のお客様との取引を増やすために今までやっていなかった工夫を3つ
・新規開拓のためのアクションを3つ
これを策定してみてください。

これらの「裏目標」と行動計画は、絶対に実行し、その週の最終営業日に必ず振り返りましょう。

これは上司に提出するものではありません。「自分ノート」を作り、自分で自分をマネジメントしていってください。

木田さんは、もともとルート営業という手法では、今までしっかりと実績を出してきたんでしょう。今回の状況を新たな学びを得る機会だととらえれば、さらに大きく成長できますよ。

3)社外の人たちと交流する機会を1カ月以内に2回持つ

社内がこういう雰囲気だと、自分の判断基準が正しいのか否かがわからなくなってしまいます。客観的な判断基準や、多種多様な価値観を知るために、社外の人たちと交流する機会を設けましょう。

たとえば、あるサービス業に努めていたAさんは、「休日出勤は当たり前」「社会人たるもの会社に全人生を捧げるもの」という社風の会社で働き続けていましたが、猛烈なストレスを抱え込み、そんな会社に疑問を持っていました。

そこで、ミクシィで見つけた勉強会に勇気を出して1人で参加してみたところ、衝撃を受けたそうです。同じ年で、しかも同じサービス業なのに、休日出勤もせず、仕事は一生懸命やりながらも社外の人と積極的に交流し、様々な学びや友人を得ている人が世の中にはたくさんいることを知ったからです。

この出会いをきっかけに、Aさんは勉強会で知り合った人たちと情報交換をするようになりました。そして、どんどん刺激を受けて、価値観が変わっていきました。自分は自分の感覚のままでいい、会社の文化がおかしいんだ、と。

それからAさんは断固として休日出勤はしないように、シフト管理などを徹底し、社外での交流を増やしたそうです。今でも労働時間は長いですが、それでもモチベーションはかなり高くなり、仕事にも張りが出てきたと言っています。

これから1カ月の間に最低2つはそういう場に出かけてみてください。異業種交流会でも勉強会でもいいです。多くの会社で、この不況下に売り上げが下がった状況を打破する施策が打たれています。さまざまな企業の人たちと対話する中で、現状を打破するヒントや、自分の考え方を肯定できる話もきっとあるはずです。

木田さんは今、苦難を前に立ち往生しています。一社員の立場だと、自社のトップの意識や方針を変えるのは難しいのが実情でしょう。でも、実はその状況がラッキーなんだと思える、こんな言葉を最後にお伝えします。

人間がいろんな問題にぶつかって、はたと困るということはすばらしい「チャンス」なのである。

本田宗一郎

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ハックシリーズ著者の小山龍介が編集長をつとめる、ビジネスマンに向けたビジネスウェブマガジン。豪華連載陣、インタビュー記事を中心に、仕事の息抜きに楽しめるコンテンツを提供しています。

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