
仕事が、そして人生が豊かになるハック2.0
12/9発売の『IDEA HACKS!2.0』の「はじめに」にこんなことを書きました。実際の本ではここから、文章を削ってしまったので、あらためてもとの文章を掲載したいと思います。
はじめに
仕事が、そして人生が豊かになるハック2.0
効率的に仕事をすればするほど、その人の仕事は貧しくなっていきます。できるだけ苦労をせずに、効率よく人生を歩んできた人の表情が、どこか貧相になっていくのと同じです。
二〇〇六年にIDEA HACKS!を書いたときには、「この本を読んで、仕事が楽しくしてほしい!」と思って書きました。ちょっとやり方を変えるだけで、考え方を変えるだけで、それまで苦痛だった仕事が楽しくなる! 仕事をクリエイティブに変えてしまう仕事術でした。
今回の『IDEA HACKS!2.0』は、仕事を「豊かに」するハック です。
豊かといえば、富という意味での豊かさがまず思い浮かぶでしょう。仕事で圧倒的な成果(アウトプット)をあげ、それに加えて仕事以外の「複線」のキャリアでも収穫も得て豊かになっていく。このIDEA HACKS!2.0には、仕事を通じて「豊かな生活」を獲得する方法が満載です。しかしこれは実際には、「豊かな生活1.0」というべきものかもしれません。
この1.0に加え、精神的な豊かさをも目指しています。自分のやりたいことを成し遂げる。「このために生きていたんだ!」と日々、実感し、明日が来るのが待ち遠しくなるような生き方。そんな「豊かな生活2.0」をどうしたら手に入るのか。
ここに前著とIDEA HACKS!2.0の大きな「差分」があります。
能力やスキルは、成功の第一要因ではない
このハック2.0にたどり着くのには、3.11の東日本大震災のあとで経験したボランティア経験が、非常に大きかった。石巻や仙台に入り、がれきの撤去やヘドロの書き出しをやっている中で、大きなことに気づいたのです。
非常に重要なことを言います。
これはこれまでのハック本を読んでいた人には、驚きの結論です。
それは、
「もっているスキルと仕事の成功の間の因果関係はない」
ということです。
ハックシリーズを、もし「成功」のために読んでいるのだとしたら、それはまったく時間の無駄なので辞めたほうがいいでしょう。スキルで差がつく分野ももちろんあります。しかしそれは五十歩百歩です。
ビジネスの現場を見渡してみても、必ずしもスキルはないのに、成功している人はたくさんいます。逆にスキルはしっかりあるのにチャンスが巡ってこないために、埋もれている人を想像する方がわかりやすいかもしれません。
仕事で成功するために必要なものは、スキルではなく運です。一九七〇年代たまたまパソコンの黎明期に、パソコンが生まれる現場にいたからこそ、コンピューター会社に入り大金持ちになる。二〇〇〇年前後には同じようなことがIT業界でも起こります。
成功している人ほど、みずから「能力があったのではなく、運が良かった」と述懐します。これは謙遜ではなく、本心でしょう。
運を大事にしなさい、という話であれば、できの悪い自己啓発書になってしまいます。ライフハックでは、この運さえもハックする。そこにハックシリーズのハックシリーズたるゆえんがあります。
運をつかんで成功している人は能力が突出していたというよりも、その業界に献身的な働きをしたからです。それによる報酬を顧みず、自分のできる限りのことをおこなったからです。だからこそ、その業界における第一人者としてみなから認められるようになったのです。
ボランティア精神が成功の秘訣である。それを震災ボランティアの体験の中から学んだのです。
(立ち読みをしている方、まだ本を閉じないでください。ここからが重要です!)
これであなたもスティーブ・ジョブズになれる!
IDEA HACKS!2.0の究極の目標は、スティーブ・ジョブズになることです。ビジョンを持ち、人を巻き込み、イノベーティブな製品を作り、ユーザーは熱狂していく。そんなジョブズのようになれたらどんなにすばらしいことでしょう。(人格的にはかなりたいへんな人だったみたいですが(笑))
彼は一九八四年にアップルから追放され、一九九七年に戻ってきたときには暫定CEOとして、給料はたった一ドルでした。その彼がこんなことを言っています。
知ってると思いますが、私たちは自分たちの食べる食べ物のほとんどを作ってはいません。私たちは他人の作った服を着て、他人のつくった言葉をしゃべり、他人が創造した数学を使っています。何が言いたいかというと、私たちは常に何かを受け取っているということです。そしてその人間の経験と知識の泉に何かをお返しができるようなものを作るのは、すばらしい気分です
スキル至上主義の人は、自分のスキルをまるでオリジナルのものと言わんばかりに「どや顔」で使い、他人を圧倒しようとします。しかしジョブズは、「受け取っているものへのお返しをするのだ」と言うのです。
そのジョブズが亡くなった翌日、神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんは次のようなツイートをします。
「人間の価値は何を成し遂げたかではなく、何を贈ったかによって考量されるということが改めて身にしみるジョブス君の通夜の夜です。」
ジョブズになるなら、スキル至上主義を捨てるべきです。スキルを持った自分がどんな報酬をもらえるのかを考えるのではなく、自分がその業界に何ができるのか、その社会に何ができるのかを考える必要があるのです。
何を得られるかではなく、何を贈ることができるのか。問いを一八〇度回転させ、報酬ではなく、贈与を優先して考えることによって、その人は「運」をつかむことになります。(この点において、スキルを上達させて年収を上げると主張するビジネス書の多くは、かえって目的から遠ざかる「悪魔のささやき」でしかありません。)
これを別の言い方で言えば、「方法から場へ」ということができます。
今までのハック1.0は、方法を取り扱ってきました。それは一歩間違えるとスキル至上主義になりかねないものをはらんでいたことは、ここで認めたいと思います。
この2.0においては、その人の献身によって、業界や社会といった「場」を豊かにすることで、自分も結果的に豊かになるという新しいアプローチを提案します。
多くの人にちょっとずつ支えられて自由になる!
このIDEA HACKS!2.0が「豊かさ」を目指しています。その豊かさには、実はこの「場」が関係しています。個人が豊かになるためには、その個人が所属している場が豊かでなければならないからです。
しかし、日本という場は、いまやどんどん貧しくなっています。「子ども手当」などは、借金を未来に先送りして親が楽をしようというとんでもない発想です。子どものことを思っているようで、そのお金は将来、子ども自身で返済することになります。「今がよければ、自分がよければ」という利己主義も、ここまで大手を振って行われると、逆に感心してしまいますね。
これから、僕たちが相当働いていかなければ、日本という場が豊かにならないでしょう。国の出費を抑えるのはもちろん必要ですが、それでは間に合わないほど財政赤字は膨らんでいます。この国の未来のためにも、今すぐにでも増税をして、税金を少しでも多く支払える人が税金を支払っていくべきです。
と、ハック本らしからぬ(笑)政治ネタに走りましたが、三〇年後を見ていてください。そういうふうに、みずから身を粉にして場のために働いた人が、成功者として、多くの人から賞賛されているはずです。それは、内田さんの言葉を借りれば「人間の価値は何を成し遂げたかではなく、何を贈ったかによって考量される」からなのです。
とはいえ、「遠い将来の見返りのために、なかなか献身的に動けない」という人も多いでしょう。ソーシャルメディアの広がりが、実はビジネスの世界を大きく変えようとしています。
本文中でもご紹介する永川優樹さんは、世界中をデジタルカメラ片手に旅し、そこで撮影した動画をYouTubeに載せています。その動画が一日三万回再生を超えるようになり、旅の映像で得た収入で旅を続けられるようになったといいます。
このWORLD CRUISEというタイトルの美しい映像を世界に「贈る」ことによって生かされる。そんな新しい世界が生まれているのです。
ここで問われているのは、スキルではありません。もちろん美しい映像を撮るスキルは最低限、必要になりますが、それ以上に、そうした映像を多くの人に届けて、世界を少しでもワクワクするものに変えていこうという献身です。そこに多くの人による閲覧という、小さな小さな「お返し」が返ってくる。
僕は多くの人の支援によって生かされるほどの人間だろうか、それだけ社会に贈り物をできているだろうか。
IDEA HACKS!2.0は、この問いに対する今この時点での僕の答えでもあります。

